本研究会の5年間の足跡の一里塚となる報告書『声を聴くこと ゆらぎと気配(けはい)の弁証法』が、本日、出版日を迎えました。奥付上の発行日は、10月17日ですが、すでに各オンラインストアなどで販売が始まっております。
タイトルの「声を聴く」ということばから「最近流行ってるテーマですね」というコメントをいただいたり、「ゆらぎ」「けはい」「弁証法」なんていかにも難しそう、というコメントをいただいたりしています。
流行っていることの研究ではないので、しまったなあ、と思います。
また、もう少し難しくなさそうなタイトルにしたかったのですが、どうしても、できませんでした。
その辺りのことは、まえがきに書きました。
例えば次のような方々に、手に取っていただきたい本です。
・透明化されたり、透明化されかねない存在から声がきこえると、違和感や不快感を禁じえない方
・「人文学研究は何かの役に立つ」とは思えないのにそこから離れずに生きる自分を持て余している方
・昨日までは間違いとされたことが今日は正しくなっていたりその逆が起こる現実に、もやもやとした思いを抱く方
・教育者として、自らの教育実践と研究者としての実践とが、明確につながっていると感じたり、つながっていないことを残念に感じたりしている方
・書影をきれいだなと感じてくださる方
よろしかったら、お手に取ってくださいませ。この5つのクライテリアを読み直してみて、ああこれは、いずれも、私の10年前の姿だなと気づいて苦笑しております。この表紙をきっと、当時の私も好きに違いないことだけは確信があります。
よろしくお願いいたします。
声の主体による文化・社会構築研究会代表 間瀬幸江
紹介
私は ここに います/いました
戦争、飢饉、災害、性暴力――災いを語ることも、それを聴くことも、難しい。社会に聴かれぬ人々がさらに透明化されてもなお、その声を聴くための視点を、文学・歴史学・哲学・演劇学・社会学など複数の領域から、論考・エッセイの形態で多角的に提示する。
[はじめに]より
みずからの解釈や合点を入れずに聴くことは、その語りの向こうに、飲み込まれ、途切れたあまたの人々のあまたの声があると知り、しかしそこに踏み入らず、ただ受け止める―そうした姿勢が問われる。そして、それは簡単ではない。掴めない焦りや不安、寄る辺なさに、聴き手は「ゆらぐ」。「ゆらぎ」は通過儀礼ではないため、一度痛い目にあったからもうわかった、などとはならない。聴くという営為は「ゆらぐ」ことそのものである。
目次
はしがき 【間瀬幸江】
1.[論考]
「私」をめぐる問い――第一世代の戦争体験を書く第三世代の作家、フランソワ・ヌーデルマンとアンヌ・ベレスト 【國枝孝弘】
2.[エッセイ]
静かにささやく声が聞こえた 【栗原健】
3.[論考]
言葉と辞書の時代性――大槻文彦『言海』を読む 【菊池勇夫】
4.[エッセイ]
翻訳者の視点から――沈黙を見る 行間を読む 【永田千奈】
5.[論考]
証言における真理と倫理の交差 【越門勝彦】
6.[エッセイ]
建築計画学から考える 【石井敏】
7.[論考]
『シャイヨの狂女』再読のアルケオロジー 【間瀬幸江】
8.[エッセイ]
一つの史料から 【菊池勇夫】
9.[論考]
遊びとして押し寄せる子どもの声――支援者のゆらぎと「余白の時間」 【安部芳絵】
10.[公開シンポジウム「声の気配(けはい)を聴く」レスポンス]
声を聴く私たちと、その複数性について――アフガニスタン記念碑(ヴィクトリア)、帝国戦争博物館(ロンドン) 【酒井祐輔】
11.届けられた声――シンポジウム来場者アンケートから 【間瀬幸江】
「声の気配」を聴くことは、みずからの声の輪郭をも描き直す営みである――あとがきにかえて 【間瀬幸江】
著者プロフィール
声の主体による文化・社会構築研究会(代表・間瀬幸江) (コエノシュタイニヨルブンカシャカイコウチクケンキュウカイダイヒョウマセユキエ) (編)
声の主体による文化・社会構築研究会
國枝孝弘(くにえだ・たかひろ)
◆フランス文学・言語表現論・フランス語教育/慶應義塾大学教授
主要業績:「ことばは現実をどのように『すくいとるか』――体験・共感・言葉の所有」(宮代康丈・山本薫編『言語文化とコミュニケーション(シリーズ総合政策学をひらく)』慶應義塾大学出版会、2023)ほか。
栗原健(くりはら・けん)
◆宗教文化・ドイツ史/宮城学院女子大学准教授
主要業績:Celestial Wonders in Reformation Germany(Pickering & Chatto, 2014)ほか。
菊池勇夫(きくち・いさお)
◆日本近世史(東北・北海道史)/宮城学院女子大学名誉教授
主要業績:『江戸時代の災害・飢饉・疫病――列島社会と地域社会のなかで』(吉川弘文館、2023)、『近世の気象災害と危機対応――凶作・飢饉・地域社会』(吉川弘文館、2024)ほか。
永田千奈(ながた・ちな)
◆フランス語翻訳者
主要業績:シュペルヴィエル『海に住む少女』(光文社古典新訳文庫、2006)、マッコルラン『悪意』(国書刊行会、2021)などの幻想文学のほか、ノンフィクションなど訳書多数。
越門勝彦(こえもん・かつひこ)
◆哲学・倫理学/明治大学教授
主要業績:『省みることの哲学――ジャン・ナベール研究』(東信堂、2007)、『現代フランス哲学入門』(川口茂雄・越門勝彦・三宅岳史編著、ミネルヴァ書房、2020)ほか。
石井敏(いしい・さとし)
◆建築学(建築計画)/東北工業大学教授
主要業績:「自立した暮らしを支える高齢期の住宅」「地域居住を支えるサービスハウスとサービスセンター」(北欧環境デザイン研究会編『北欧流「ふつう」暮らしからよみとく環境デザイン』彰国社、2018)、「環境の整備」(太田貞治・上原千寿子・白井孝子編『介護福祉士実務者研修テキスト 全文ふりがな付き(こころとからだのしくみ)』第4巻、中央法規、2023)ほか。
間瀬幸江(ませ・ゆきえ)
◆フランス両大戦間期演劇/宮城学院女子大学教授
主要業績:『小説から演劇へ――ジャン・ジロドゥ 話法の変遷』(早稲田大学出版局、2010)、「『ルクレチアのために』の今日的意義――暗闇の中の手つかずの可能性」(澤田直、ヴァンサン・ブランクール、郷原佳以、築山和也編『レトリックとテロル―ジロドゥ/サルトル/ブランショ/ポーラン(日仏会館ライブラリー 3)』水声社、2024)ほか。
安部芳絵(あべ・よしえ)
◆こども環境学・教育学・子どもの権利論/工学院大学教授、世田谷区子どもの人権擁護機関委員
主要業績:『災害と子ども支援――復興のまちづくりに子ども参加を』(学文社、2016)、『子どもの権利条約を学童保育に活かす(そこが知りたい学童保育ブックレットシリーズ4)』(高文研、2020)ほか。
酒井祐輔(さかい・ゆうすけ)
◆イギリス文学/宮城学院女子大学准教授
主要業績:共編著『キーワードで読むヴァージニア・ウルフ――作品も作家もこの一冊で!』(小鳥遊書房、2025年刊行予定)、「ブルームズベリーのリベラルはコミュニティの夢を見たか?――ソサエティ、コミュニティ、ネーションの重複問題」(『遍在するソーシャリズム――長い20世紀の文化研究』小鳥遊書房、2025年刊行予定)ほか。
上記内容は本書刊行時のものです。
===本の紹介(版元.comより 転用ここまで)===




