子どもが相談をふりかえる声 (紹介資料「せたがやホッと子どもサポート活動報告書<令和元年版>」)20220617 安部第4回

 

 声のコラム第4回めは、世田谷区子どもの人権擁護機関による「せたがやホッと子どもサポート活動報告書<令和元年版>」をもとに、子どもが相談をふりかえる声に着目します。
こども家庭庁・こども基本法に関連して、今国会では子どもコミッショナーが取り上げられました。国連子どもの権利委員会によれば、子どもコミッショナーとは、子どもの権利の促進と保護を担う独立した人権機関であり、すべての国に必要とされているものです(国連子どもの権利委員会一般的意見第2号、子どもの権利の保護および促進における独立した国内人権機関の役割、2002年)。
子どもコミッショナーはオンブズパーソンや人権擁護委員と呼ばれたりもします。日本では、1999年に兵庫県川西市で子どもの人権オンブズパーソン条例ができたのがはじまりで、今では40を超える自治体に設置されています。残念ながら今回の法案では国レベルの設置は見送られましたが、冒頭に紹介した世田谷区子どもの人権擁護機関はそのひとつです。
 せたがやホッと子どもサポート、通称「せたホッと」の特徴のひとつは、子どもからの相談が多いことです。令和元年度の新規相談件数は、子ども167件、おとな105件でした(p.6)。子どもの内訳は、小学生が60.7%、中学生が23.2%、高校等が12.1%となっています(p.10)。相談内容としては、「対人関係の悩み」が39.5%と最も多く、「家庭・家族の悩み」15.0%、「いじめ」9.6%、「学校・教職員等の対応」9.6%となっています(p.12「初回の相談者が子どもの場合の相談内容」)。「対人関係の悩み」のなかには、「ついカッとなってひどい事を言ったり暴力をふるってしまうが、どうしたらやめられるのか」という加害側の子どもからの声も紹介されていました(p.15)。
せたホッとの報告書は、「相談者からの声」をコラム的に紹介しています。とくに、令和元年度の報告書では、2020年春に高校を卒業した3人の相談者と個別にやりとりをした内容を座談会風にまとめた「相談者からの声」が目をひきます。ここからは、子ども自身が、かつて悩み、苦しみ、つらかった気持ちを相談した「自分」を、じっくりふりかえり、その気持ちの変容を声にするプロセスを垣間見ることができます(pp.43-46)。
せたホッとに相談したことで、すぐに悩みやつらさが解消するわけではありません。それでもまた相談しようと思ったのはなぜですか、という問いに学校の人間関係と家庭の事を相談していたAさんは次のように答えています。

たとえ解決が難しいような内容でも、とにかく一緒に悩んでくれるからです。当時、友達も少なく、相談できる友達もいなくて、先生にもわかってもらえなかった悩みを一緒に「どうしてだろうね」って悩んでくれて。それに、「つらかったね」「これまでよくがんばったね」って私の味方でいてくださいました。その言葉一つ一つが私の支えだったんです。

Aさんは、相談したことで「自分を知るきっかけ」にもなった、といいます。そして「今まで見えなかったことがすこしずつ見えて」来た、「全体を通して、自分の事を受け入れること」ができたと言います。
中学からの対人関係の悩みをひきずって、高校1年の時は沈んでいたというのはCさんです。最初は親に連れられてせたホッとにきたのだそうです。

「自分のことは自分でなんとかできる」という考えが意識の根底にありました。よく「自分で抱え込まず、誰かに相談を」というフレーズを耳にすることがあると思います。ただ、当時の病みきった私は「そんなのは自分には該当しない。頼ることじゃない。自分でなんとかできる」という思いが頭の中を占領してた感じでした。そのため、1回目の相談の時はもう来ないつもりで臨みました。しかし、担当の方の受け答えがよく、自分に否定的な印象が感じられなかったので、相談を続ける方へ気持ちが傾いたと、今は思っています。

Cさんは、せたホッととの出会いで「自分に安心を覚えるように」なったといいます。自分のことが大好きで仕方ないとは言えないけれど、自分の良いと思える点は間違いなく増えたと言います。
Bさんは、周りの子と自分とのちがいに悩んでいました。自分自身で解決しようと思ってもうまくいかず、学校の先生に相談するといろいろこじれてしまうかもしれない、と感じていたそうです。相談を終えて、今後はどんな未来を描いていますか?という問いにBさんはこう答えました。

相談し始めたときは、何になるかはっきりとは決めていなかったけれど、相談にのってもらう中で自分の頭の中が整理されて、何になりたいかはっきりしてきました。大学では生命科学を学んでいて、将来は研究者になって、薬の開発に携わりたいです。

子どもの気持ち・本音は、必ずしも、最初から声となって姿を見せるのではないようです。気持ちが声になるプロセスはいかにして生み出されるのか。子どもは世界の捉え方をどのように変容させているのか。引き続き探っていきたいと思います。

(工学院大学准教授 安部芳絵)

「声のつながり大学」内「声のコラム」 第28回 2022年6月17日放送